大坪徹
事務所

COLUMN

コラム「住み手の大声小声」

北海道の住宅業界事情に精通した専門紙「北海道住宅通信」に、2023年6月号から2024年5月号まで掲載。

プランづくりで、家族を知る

「この家、建て替えようか」。わが家の家づくりは、安普請の住宅に悲鳴をあげた妻の一言から始まりました。住宅展示場で7社のモデルハウスを見て回り、そのうちの2社に相見積もりをお願いすることにしました。一つは当初、候補にはなく、たまたま目に留まって見学したA社。洗練されたデザインと、造作家具が多用されていて「面白い家づくりができそう」と思ったのが選定理由でした。もう一つのB社は企画住宅で、耐震性と断熱性がしっかりしていました(実は以前、妻が入院していた時に同部屋だった人が勤めている会社)。

二者択一になるわけですが、大きな買い物だけに納得して決めたいということで、もう1社追加することに。近所に住む腕のいい棟梁(釣果をよく頂くんです)が推薦してくれた地元工務店のC社。なんとも人の縁、地の縁がらみで「これでいいの?」という思いもありましたが、縁は大切。「まあいいか」ということにしてしまいました。

3社に相見積もりを依頼するからには、同じ土俵で比較する必要があります。僕は早速、プランづくりに取りかかりました。一番のこだわりは、あちこちに設けた「お酒堪能スペース」。1階には薪ストーブのある土間と、小上がり風の和室。ゆらゆら揺れる炎を見ながらグラスを傾け、〆に掘こたつで日本酒を味わうのです。2階の仕事部屋にはベランダを設け、そよ風に吹かれながらビールをグイッと。

家族に意気揚々と間取り図を見せると、「もっと先々のことを見据えたほうがいいと思う」と妻。歳を取って身体能力が衰えたら階段は危険だし上り下りもつらくなる。1階に土間や小上がりを設けるスペースがあるなら、主寝室を配すべきだと力説するのです。僕が「その時はその時さ」みたいなことを言うと、あなたは体が不自由になったら小上がりに布団を敷いて寝起きするのかとまで言われ、はい、僕の完敗でした。

プランという土俵の上でいくつかの攻防がありましたが、どんな家にするかについて家族と話し合った時間はかけがえのないものでした。妻は壁でリビングと仕切られたキッチンにいて、隣から家族の笑い声を聞く度に「ちょっぴり寂しかった」と。そこで、プランではリビングと一体化した対面キッチンを採用。娘は卒業したら東京で自分の可能性を試したいと、初めて話してくれました。これまでどんな思いで一緒に暮らしてきたのか、これからどんな生き方をしたいのか。プランづくりとは、家族一人ひとりの気持ちを確認する作業なのでした。

相見積もりを取るためのプランと、併せて予算の目安として年収と月々の返済可能額を提示しました。見積書の提出は10日後で、その日がだんだんと近づいてきます。僕はもうドキドキ。全社とも予算オーバーだったらどうしよう?再度、住宅会社を探すのか、プランを見直すのか。僕の中では、特にA社の数字が気になっていました。どうか、予算内で収まりますように。そしていよいよ見積書の提出日。結果は…なんと全社、予算オーバー!僕と妻は顔を見合わせて大笑い。人間は落胆の極致に達すると笑い出すようです。さあ、どうする大坪家!

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