大坪徹
事務所

COLUMN

コラム「住み手の大声小声」

北海道の住宅業界事情に精通した専門紙「北海道住宅通信」に、2023年6月号から2024年5月号まで掲載。

住宅展示場で「忍び」に出会う

仕事柄、住宅会社に関する情報は多少持っていたので工法・性能・価格の面から6社ほど選び、モデルハウスを2日間かけて見て回りました。現在は実生活に即した造りのモデルハウスも数多くありますが、当時はやたらと広くて豪華なものばかり。「なんかスゴイね」と目を丸くしている妻に「広さとかインテリアに惑わされないで、プランを考えるヒントにすればいいんだよ」なーんて、いかにも住宅展示場の通人を気取った僕でしたが、仕事で来た時は「やたらと広い豪華な造り」なんて思ったたことはありませんでした。重要なポイントは、広告映えするかどうかでした。立場が変わると、見え方も変わるもんだなあと感じたものです。

各モデルハウスを見学して、特に印象的だったのが担当者の対応でした。見て回る際の距離感が違うんです。「どうぞご自由に」という感じの<放任型>もあれば、一緒に回って逐一説明する「密着型」もありました。<放任型>は物足りなく、<密着型>は少し息苦しく感じられました。もちろん僕の個人的な感想であり、客によって接客へのニーズは異なるでしょう。

その中で、とても好感の持てる担当者に出会いました。「付かず離れず型」とでも言いましょうか。僕たちが興味を示すと、どこからともなく現れて説明してくれるのです。例えば、ベッドスペースと収納スペースが本棚で緩やかにエリア分けされていた洋室。僕が「ほう!」と言うと担当者が近づいてきて、間仕切りしつつ部屋の開放感を保つための工夫であると説明してくれるのです。

「お子様のお部屋ですか?」。担当者の言葉に「仕事部屋に使えるアイデアだなと思って」と、思わず答えている僕。客のニーズを何気なく引き出すテクニックにも感心しました。話が終わると、その場を離れ、また現れる。僕は「殿様に仕える忍び」のようだと思ったものです。きっと応対チャンスのセンサーみたいなものを身につけているんでしょうね。おかげで気兼ねなく見て回りながら、有益な情報を得ることができました。

一通り見終わり、駐車場に向かう途中、比較的こじんまりとしたモデルハウスが目に留まり、見学することにしました。その時は、この住宅会社が家づくりのパートナーになるとは考えもしませんでした。わが家の家づくりは、いよいよ業者選びへと進んでいきます。

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