大坪徹
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COLUMN

コラム「住み手の大声小声」

北海道の住宅業界事情に精通した専門紙「北海道住宅通信」に、2023年6月号から2024年5月号まで掲載。

住んでわかる寒さの落とし穴

この冬は暖かくて過ごしやすい。といっても外気温のことじゃなく、僕の仕事部屋のこと。昨年、夏の猛暑に耐えかねて取り付けたエアコンが、パネルヒーターの補助暖房として大活躍中。例年なら、ズボンの下にタイツを履いたり、セーターに防寒ベストを重ね着したり、使い捨てカイロを貼ったりと、室内とは思えない重装備でした。

でも、この冬は重いコートを脱いだ春のように軽やか。この仕事部屋のパネルヒーターですが、畳数の割に暖房能力が小さいと思うんです。他の洋室より広さがあるのに、パネルヒーターの長さは半分しかない。機器の選定を間違えたのかも。施主としてしっかりチェックすべきだったんでしょうけど、何せこの家が完成したのは初夏。暖房のことに意識が向かず、冬を迎えて初めて気づいた次第です。

住宅の温熱環境って、実際に住んでみないとわからないことが多いと思います。前述の仕事部屋もそうだけれど、わが家の場合、その最たる場所が吹き抜けのあるリビング(=写真)でした。新築して最初の冬、暖房を入れても室温がなかなか上がらないのです。原因はすぐにわかりました。吹き抜けの高窓。当初、外からの視線を気にする必要がないということで、カーテンを付けていなかったのです。

急きょロールスクリーンを取り付けてもらったところ、その断熱効果は絶大でした。ところがこのリビングには、寒さの意外な落とし穴がひそんでいました。ある日、ソファに寝転がっていたら、ゾクゾクっとしたのです。吹き抜けの上部から冷気が流れているではありませんか。もちろん2階の窓が開いているわけではありません。

ネットで調べて分かったのですが、これ「コールドドラフト」っていうんですね。上昇した暖かい空気が窓に触れることで温度が下がり、冷たい空気となって下に流れるという現象。対策としてシーリングファンが有効であることを知って、思わずニンマリ。実は夏の暑さ対策のつもりで天井に設置していたのです。まさか冬も役立つとは露知らず!付けておいてよかった。

住んでからの予期せぬ寒さについて書き連ねましたが、暖かな家であることは間違いありません。北海道の住宅の歴史はそのまま寒さとの闘いであり、この半世紀の間に断熱・気密性能は飛躍的に進化したといわれています。

かつて僕が過ごした実家は、冬になると窓ガラスに結露がびっしりと発生していました。指でよく絵を描いて遊んだものです。それと屋根のつらら。当時はどの家の軒下にも垂れ下がっていて、冬の風物詩の一つでした。この結露もつららも、住宅の断熱性が低い証。現在はほとんど目にすることがなくなり、このことだけでも住宅性能がいかに向上したかがわかります。

 北海道の冬は半年近く続きます。ということは、この地に暮らす人にとって、人生の半分は冬です。大雪に底冷え、突出する暖房費…。ため息の出ることが多いけれど、せっかく北海道に住んでいるのだから、冬を嫌うのではなく、もっと仲良くできたら、人生はいっそう楽しくなるじゃないだろうか?豊かな冬の暮らしに向けて、住宅にできることは大きいと思います。

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