大坪徹
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COLUMN

コラム「住み手の大声小声」

北海道の住宅業界事情に精通した専門紙「北海道住宅通信」に、2023年6月号から2024年5月号まで掲載。

家と雪はもっと親しくなれる

vol.10

寒さが随分とやわらいで、春はもうすぐそこ。窓から公園の丘を見ると、白樺の根回りの雪が解けて、土が顔を出しています。このうららかな光景、冬真っただ中の2月にも目にしました。その日、札幌の最高気温はなんと13.9度。2月としては記録的な暖かさでした。急速に雪解けが進み、同じ日に町内の排雪作業もあって一気に春の気配に。今年は桜の開花も早いぞ!なんて思っていたら、喜びも束の間。その3日後には今シーズン一番の大雪に見舞われ、公園の丘の光景も真冬に逆戻り。自然はそう甘くない。しっかり帳尻を合わせてきました。

北海道で暮らす人、特に戸建住宅に住んでいる人にとって、雪はかなり厄介ですよね。それを痛感したのは、30年ほど前に横浜から札幌に移り住んだ冬でした。僕は住む家を探すために家族より先乗りして、叔父の家に1ヶ月ほどお世話になりました。働かざる者食うべからずで、僕は「毎日の雪かき、お任せあれ」と宣言。叔父は「おう、それはありがたい!」とニンマリ。あの含み笑いの理由は、翌朝の雪かきですぐにわかりました。この家の敷地には堆雪スペースというものがなく、なんと70m先の公園までスノーダンプで運び、排雪しなければならないのでした。大雪の日は10往復以上。これにはさすがに閉口しました。

春の足音が聞こえてきた頃、友人の紹介もあって中古の戸建住宅を購入しました。気に入った理由の一つが、家の前に川があったこと。「これは雪かきが楽だ」と思ったのです。スノーダンプで玄関前から幅6メートルの市道を越えて、そのまま川にドボンと落とせばいいのです。叔父の家で味わった雪かきの苦労が、購入の決断に大きく影響したことは言うまでもありません。

それから10年後、この中古住宅を建て替えることになり、建物を少しセットバックすることにしました。玄関前のスペースが広くなっても、除雪・排雪の労力はさほど増えないと思ったのです。何しろ前は川、ドボンでオーケー。ところがです。家も完成したある日、町内会の回覧板がまわってきて「春の雪解けシーズンに川が増水する原因となるので、川に排雪することを禁止する」と書かれているではありませんか。はい、ごもっともです。でも青天の霹靂。

その後、川に沿ってコンクリート土台とガードレールが設けられ、さらに狙いを定めたかのように、わが家の真ん前に注意看板(=写真)が備え付けられたのです。ロックオン!現在は雪を庭の方にせっせと運んでおります。

断熱・気密の面で北海道の戸建住宅は劇的に進化したけれど、雪処理対策の面はどうなんでしょう。融雪層やロードヒーティングといった対策があるけれど、初期費用やランニングコストを考えると尻込みする人もいるんじゃないだろうか。札幌で分譲マンションを販売する際に必ずターゲットに設定されるのが、雪かきを厭う家持ち高齢者なんです。北海道で不可避の雪が原因で愛着のある家を手放さざるを得なくなるというのは、どうも釈然としません。雪処理の労力を軽減する工夫を施した建築プランがもっと増えてほしいと感じた、この冬でした。

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