大坪徹
事務所

COLUMN

コラム「住み手の大声小声」

北海道の住宅業界事情に精通した専門紙「北海道住宅通信」に、2023年6月号から2024年5月号まで掲載。

なくてはならない「使わずの間」

このコラムの掲載号は2023年12月30日発行なので、年明けに読んでいるという方が多いのではないかと思います。新型コロナウイルス5類移行後、初めて迎える年末年始。久しぶりに実家に帰省したという方もいるのではないでしょうか。わが家も3年ぶりに母を実家から呼び寄せ、一緒に正月を迎えることにしました。子どもたちも帰省するとのことで、賑やかな年末年始になりそうです。人が泊まりに来た時に、客間として活躍してくれるのが2階に設けた和室(=写真)です。でもこの和室、住んでみて「ああすればよかった、こうすればよかった」と後悔したことの一つ。実は、ほとんんど「使わずの間」と化しているのです。

和室は伝統的な日本建築の象徴とも言えますが、西洋化する時代の流れに飲み込まれることなく、根強く受け継がれています。分譲マンションにはほとんど採用されなくなったけれど、戸建住宅ではその汎用性が見直されて人気が高まっているようです。家族で鍋をつついたり、昼寝をしたり、洗濯物をたたんだりとなかなか重宝。1階のリビングと連続させるプランが多いようですね。あの時、この汎用性の方向で妻にプレゼンテーションすべきでした。

以前、このコラムでも触れましたが、わが家のプランづくりの段階で、僕は1階に小上がりのような和室を考えていました。でも妻の説得力ある反論に屈して実現せず。「畳に寝転んで日本酒飲むぞ、キャホー!」みたいなノリで、妻にプレゼンテーションしたのが間違いでした。それでも「畳の上で酒を飲みたい」という欲求を、そう簡単にぬぐい去ることはできません。下が駄目なら上があるさということで、2階にそれなりのしつらえを施した和室をつくったのです。

3枚の障子戸は戸袋引き込み式にして2階ホールと一体化させ、正面の壁には黄系の珪藻土を塗って空間にアクセントを演出。床には琉球畳を敷いてモダンな雰囲気に。なかでも特筆すべきは窓に取り入れた雪見障子。しんしんと降る雪を眺めながら熱燗を味わうのだと、意気込んでこしらえたわけです。初めのうちはお盆に酒と肴を載せて、せっせと階段を上り、一人盃を傾けていたのですが、思い描いていた居心地となんか違うんですよねえ。近くに話し相手がいなくて孤独、テレビがないので退屈、追加の酒を取りにわざわざ上り下りするのが面倒。まあ、自然と足が遠のきますわな。

「使わずの間」と化した2階の和室ですが、それでも造っておいてよかったと思うのです。身内や友人が泊まりに来た時に心置きなく迎え入れることができるのは、この和室があってこそ。それが年にわずか数度であっても大切な人と過ごす時間を支えてくれる、なくてはならない空間なのです。それと…白状しちゃいます。和室に固執した理由は「酒を飲む」以外にもあったんです。テレビドラマでよくあるじゃないですか、嫁いでいく娘が三つ指ついて「長い間、お世話になりました」っていうやつ。あの場面が頭の片隅にあった。あれはフローリングではなく、畳の上じゃないとねえ。でも、実現する気配は今のところありません。

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