家は世につれ、世は家につれ
vol.6
本格的な冬が目前に迫っているというのに、いまだに酷暑だった夏の記憶が消え去りません。道内は最高気温30度以上の日が44日間も続き、連続真夏日の最長を記録しました。僕の仕事部屋は南向きで、陽光が容赦なく射し込み、外壁のガルバニウム鋼板はフライパン状態となって室内を熱し、窓からの風は熱波と化したのです。入った経験はありませんが、オーブンの庫内に閉じ込められた気分でした。そうなんです。わが家にはエアコンというものがないのです。17年前に家を建て替えた時に住宅会社から「エアコンの専用コンセントはどうしますか?」と訊かれ、僕は何の迷いもなく「不要です」と答えました。当時は真夏日が続くことがあっても数日で、エアコンなんて贅沢品くらいに考えていたのです。
部屋の温度が連日35度を超えたけれど、僕は酷暑と闘いました。扇風機はもちろん、足元に冷却ジェル枕、首に冷却リング、額に冷却シート、シャツに冷感スプレーを吹きかけて抵抗しました。その結果は、はい、むなしい悪あがきでした。頭は朦朧となり、仕事が手につきません。まずい、このままではローストされちゃう!僕はエアコンを求めて、家電量販店へと駆け込みました。暑さに耐えられなかったことはもちろんですが、この異常気象はきっと恒常化する、北海道でエアコンは贅沢品ではなく必需品になると思ったのです。
エアコンコーナーは客でごった返していました。やっと順番がきて見積もってもらったところ、驚きの結果が。なんとエアコンの本体価格とほぼ同額の取付工事費がかかるというのです。エアコンを設置する仕事部屋は2階にあり、分電盤は1階の洗面所にあります。1階と2階を配管でつなぐにはそれなりの長さが必要となり、壁の穴開け工事も発生。背に腹はかえられず、提示された金額を承諾せざる得ませんでした。後悔の念が胸をよぎりました。家を建てるときにエアコンの専用コンセントを付けておけばよかった…。でも17年後に真夏日が44日間も続くなんて誰が予想したでしょう。
家づくりに際して将来を見据えたプランニングが大切である、とはよく言われることです。子供が独立した後の個室の活用法を想定しておく、高齢になって身体能力が衰えても安全に暮らせる造作にしておく。まあ、これくらいのことは見通せるでしょうけど、異常気象まではなかなかねえ。でも、これから家づくりをする人は、そうも言っていられない気がします。地球環境やエネルギー問題、自然災害、ウイルス対策、働き方の変化、物価やローン金利といった経済情勢…。広い視野で先々のことをいっぱい考える必要がありそうです。
時代とともに人々の生活様式は変わり、住宅の在り方も変化していく。「家は世につれ、世は家につれ」なんですね。ちなみに暑さ対策として購入したエアコン(=写真)ですが、この時期も暖房機能で大活躍。例年、畳数の割にパネルヒーターが小さくて寒い思いをしていたけれど、暖かい冬を過ごせそう。予想外の工事費は痛かったけれど、人間万事塞翁が馬ということでしょうか。