大坪徹
事務所

COLUMN

コラム「住み手の大声小声」

北海道の住宅業界事情に精通した専門紙「北海道住宅通信」に、2023年6月号から2024年5月号まで掲載。

家族を思う、その先に家がある

広告の表現アイデアを生み出す際の、効果的なフレームワークに「5W1H」というものがあります。WHO(だれが)・WHEN(いつ)・WHERE(どこで)・WHAT(なにを)・WHY(なぜ)・HOW(どのように)。情報整理のテクニックとしてビジネスでもよく使われるので、ご存じの方も多いと思います。不動産広告を制作するとき、僕はこの6要素の中で特に、WHENとWHYを重視しています。人は、どんな時に、どんな思いから、家を持とうとするのか?このことを常に念頭に置くことで、ターゲットの気持ちにより近づき、共感を得られる広告表現ができると思うからです。

住宅購入に関する調査結果をみると、家を持つタイミングとして、結婚、妊娠・出産、子どもの入学、子どもの成長などが上位を占めています。いずれも人生の節目であり、家を購入することで家族の幸せを願う気持ちが伝わってきます。最近は資産価値の高いマンションを投資目的で購入する場合が多々あるようですが、戸建住宅の場合は購入動機のほとんどが家族愛なのではないでしょうか。家は家族を育て、守り、喜怒哀楽を受け止めてくれる、かけがえのない器なんですね。「人は、どんな時に、どんな思いから、家を持とうとするのか?」。その答えは、このへんにあると思っています。

かれこれ30年ほど前になるでしょうか。僕たち家族は横浜から札幌に引っ越してきました。まず僕一人が一足先に転居して家を探し、家族がやって来る春までに購入するという計画をたてました。本来ならもっとじっくり家探しをすべきところですが、息子は中学校進学、娘は幼稚園入園を控えていたのです。やっと親しくなれた友だち、お気に入りの遊び場、馴染んできた街、そのすべてを転校・転園で失わせたくないという思いからでした。

中古の戸建住宅やマンションを見て回りましたが意にかなう物件がなかなか見つからず「どうしたものか」と思案していたときに、東京の友人から連絡が入りました。「知り合いの両親が札幌の家を売りたいらしいんだけど、どうかな?」というのです。僕は早速、見に行くことにしました。築30年以上の戸建住宅でしたが、ボート池のある大きな公園に隣接し、地下鉄駅へも歩いても10分ほど。何よりロケーションが気に入って購入を即決、建物自体の良し悪しは二の次でした。

中古住宅とはいえ、初めてのマイホーム。子どもたちはそれぞれ個室を与えれて大喜び。妻も広いキッチンに満足そうでした。しかし、です。実際に住んでみて、かなりの安普請であることが次第にわかってきました。窓からは隙間風が入り、結露が激しく、おまけに浴室にはワラジムシが同居していました。さらに追い打ちをかけるように雨漏り!そのとき屋根裏を点検したのですが、衝撃の事実が…。なんと梁が一本通しではなく、2本の梁を板でつなぎ合わせている箇所がいくつかあったのです。建物の良し悪しを二の次にした僕は、家というものを甘くみていたのでした。こんな家で家族を育て、守ることができるのだろうか?不安を抱えながらも、気になる箇所を少しずつ修理・修繕して10年間、住み続けました。

ある日の朝、妻がコーヒーを入れながら言いました。「この家、建て替えようか」。地震や台風のたびに恐れおののく暮らし(しかも彼女の天敵ワラジムシ!)、妻としては我慢の限界だったのでしょう。そして何よりも家族を思い、その先々を考えたのでしょう。行き着いた結論が、家の建て替えだったのです。そんなこんなで、波乱の家づくりが大坪家で始まります。

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