間取り図にワクワクしたい
vol.12
最近、「間取り図」が話題になっています。引き金になったのは、覆面作家・雨穴(うけつ)氏が動画サイトに投稿した「【不動産ミステリー】 変な家」。書籍化され、今年3月に公開された映画もヒットしているようです。家の間取り図からその住人の暗部が暴かれていくサスペンス。家の間取り図が、これほど脚光を浴びたのは初めではないでしょうか。世の中にはいるんですよ、間取り図ダイスキ人間が。
以前、間取り図を見ると興奮する連中(僕たちは「マドリスト」と自称していた)が夜な夜な集まり、マンションの間取り図を持ち寄って合評会のようなことをしていたことがありました。「この部屋はいずれデッドスペースになるだろう」とか、「この回遊動線は画期的だ」とか、まあ、好きなことを言って楽しんでいたわけです。
ところが、2005年に耐震強度偽装が発覚してからまもなく、この「間取り図合評会」も自然消滅してしまいました。なぜなら、この事件以来、どのマンションの間取りも画一的になったのです。世の中の空気を察して、冒険しづらくなったのでしょうか、お行儀のいい間取りばかり。それまでは、野心的で個性あふれる間取りが結構あったのに、残念でなりません。
それに比べて戸建住宅の間取りは、どんどん進化しているように思います。子どもが賢く育つ家とか、ペットと楽しく暮らす家とか、吹き抜けでつなぐ多層空間の家とか、室内にウイルスを持ち込まない家とか、間取り図を見ていてワクワクしてきます。マンションよりも自由度が高いこともあるのでしょうけど、やはりハウスメーカーや工務店、設計事務所の「時代を先取りした、新たな暮らしを提供したい」という情熱の賜物ではないでしょうか。
戸建住宅は「マンションより自由度が高い」と前述しましたが、在来工法の場合は間取りに多少、制約があるようです。例えば、リビングの広さ。耐震性を考えると数十畳もの広さは望めないし、大空間にするとなると、それなりの梁や柱の太さ・本数が必要となり、当然コストも増えます。
実はわが家のリビング、建築中に住宅会社から「ここに1本、柱(=写真)を入れさせてください」と言われました。何でこんな所に柱があんの?と「【不動産ミステリー】変な家」のネタにされそうなくらいの違和感。でも、耐震性を保つためには仕方ありません。柱だと思うから違和感があるので、飾りにすればいいと茶色に塗装したら、不思議と気にならなくなりました。広さと耐震性とコスト、この相反関係を打破できたら、在来工法の間取りはもっと自由を得られるのではないでしょうか。
今回で「住み手の大声小声」は最終回となります。家づくりを通して感じたこと、住んでからの思いを書き連ねてきました。正直なところ、的外れなことを書いたのではないかと、不安になることもありました。何せ読者の方々は住まいのプロがほとんどなのですから。それでも続けられたのは、しっかりチェックしてくださった担当編集者の方、ほのぼのとしたイラストを添えてくれた「さとけい」さんのおかげです。1年間、ご愛読ありがとうございました。