大坪徹
事務所

COLUMN

コラム「楽天家を建てよう」

北海道のバーチャル住宅展示場WEBサイト「ままハウス」に2012年連載。

収載に際して、加筆修正を行っています。

未来への窓

Vol.6

吹抜けの窓

暑い夏が近づいてきた。憂鬱な気分になる人もいれば、心待ちにしている人もいると思う。僕としてはどちらでもないけれど、まあ短い北海道の夏をそれなりに楽しみたいという気持ちはある。仕事をちょっと早めに切り上げて、大通のビアガーデンで仲間と盛り上がるのもいい。休みの日は庭に七輪を持ち出して、ひとりジンギスカンね(暑いので誰も近寄ってこない)。もう汗だくになりながら炭を起こして、家族の冷たい視線を尻目に冷酒をあおるのだ。夜はベランダで風を感じながらワイルドターキーのハイボール。うまいんだな、これが!すいません、アルコールつながりの夏ばかりで…。このささやかな楽しみはこの夏も実行するつもりだけれど、例年になく殊勝なことも実行しなければならない。

節電である。政府は国内の原発50基がまったく稼働しないことを前提に、沖縄県を除く全国で節電を求めている。北海道電力は、猛暑だった2010年比で7%以上の節電を道民に要請。計画停電の実施も示唆している。計画停電のカレンダーが新聞の折込で配布され、それを見たあわてんぼうの主婦(うちのカミサンね)は実施が決定されたと早合点し、冷蔵庫の中はどうしよう?とか電池やロウソクを用意しなくちゃ!とか、もう大変なのである。

そんな話の中で「この夏は、本気で節電しよう」と家族で意思統一を図った。もし計画停電なんていう事態に陥ったら原発推進派の思うツボ。ここはひとつ、みんなでやればできるんだというところを示して、将来の「脱原発社会」につなげる必要があるのではないか。

ちょっと前段が長くなってしまいました。今回は「窓」の話です。窓は室内に爽やかな風や美しい景色を取り込んでくれるけれど、夏は太陽の熱を吸収し、冬は室内の暖かさを逃がしていく場所でもある。最近はガラスの間に空気層を設けた、断熱性能の高い複層ガラスサッシが一般的になり、窓を大胆に設けている住宅が増えている。

実はわが家も窓が多い。とくにリビング・ダイニングは家族みんなが集まる場所なので、気持ちのいい空間にしたかった。昼は自然光で満たされ、日差しがフローリングに美しく映える。夜は吹抜けの上部窓から月や星を楽しむ。そんな温もりと感動を期待しながら窓を配置したのだけれど、新築から一年間住んでわかったことは、窓を設け過ぎたということ。夏は太陽の光が容赦なく照りつけて暑いわ、冬の夜はせっかく暖房した熱がどんどん逃げて寒いわ、季節感あり過ぎ!こりゃだめだということで、結局、吹抜けの上部窓にカーテンを付けた。この窓は外からの視線を気にする必要がないので、当初からカーテンを付けていなかったのだ。

カーテン作戦は効果大で、夏の暑い日は上部窓のカーテンを閉め、1階リビングの窓と2階客間の窓を開ければ、吹抜けがちょうど風の通り道となり、かなり涼しい。冬もパネルヒーターのメモリを最大にしなくても寒さを感じなくなったので、それなりに窓からの熱損失を抑えているようだ。

僕が家を新築した6年前も、すでに住宅の省エネ化は叫ばれており、わが家も断熱性の高い工法にしたり、給湯・暖房にコージェネレーションシステムを採用したりした。でも正直に言うと、そこにはエコロジーというよりもエコノミーへの意識が強く働いた気がする。現在、家を建てようと考えている人の意識はどうなのだろう。

昨年の福島原発事故以来、太陽光発電とか、エネルギーゼロ住宅に対する関心が高まっているという。それは光熱費のランニングコストを軽減するとかの問題だけではなく、子どもたちや次代の人々に安心して暮らせる住環境を残したいと考える人が増えているからではないだろうか。いま日本人は、未来から正しい選択を迫られている。わが家もクーラーに頼ることなく、窓のカーテンをこまめに開け閉めしていこうと思う。小さな窓ではあるけれど、未来に向かって開かれていると信じたい。

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